日本刀の反りは、意外なところで現代に再現されました。
東京スカイツリーの構造そのものについて、設計段階からすでに太刀の反りを採り入れるというコンセプトがあったそうです。
東京スカイツリーはまっ直ぐに立っているように見えますが、下の方は幅が広く、上に行くに従って次第に細くなり、先端は直線的です。そして、三本脚で立っているように感じられます。即ち、三振りの日本刀を縦にして束ね、これを基礎に建造したと考えると判り易いかと思います。
想いを広げると、東京タワーが四本足で立っている様子も、反りの深い太刀の組み合わせであることが判ります。
建築構造などの分野については詳しくありませんので、日本刀の反りがどのような力学で働いているのか判りませんが、この姿を眺めるだけでも、確かに大地に足を踏ん張っていると感じられます。
スカイツリー本体や上部の展望台などの構造物を、まっ直ぐに上下の力方向で支えるのではなく、三方向から押し支え上げている、逆に捉えると三方向ながら周囲に力を分散させていると考えれば良いのでしょうか。
東京スカイツリーがオープンする以前になりますが、その当時人気のあったテレビ番組『ぴったんこカンカン』で、日本刀の反りと東京スカイツリーの関係が紹介されたことがありました。
小社の店内で番組が収録され、実際の太刀を示して太刀の反りについて、弊社の深海が説明しました。
東京スカイツリーについての一般的な説明では、設計者は構造的な部分よりも
我が国の様々な古典文化を近代建造物に採り込みたいと考えていたようです。
とは言え、大地に踏ん張るように立つ三本の脚を考えると、実際には太刀の構造に通じる
力学的な意味も存在するのではなかろうかと、建築家の真の意図を想像してしまいます。
日本刀の反りは以前お話したとおり、対象物をより小さい力で効果的に断ち切るために考案されました。日本刀の美しさは、まさに実用の中で育まれた機能美といえるでしょう。 同様のことが、日本建築の屋根の反りについてもいえるという見解があります。 神社仏閣などに見る屋根の反りは、「縄だるみ曲線」という独特の反りをもっています。 この反りは、縄が自然にたわむその反りを元にしたものです。 驚くのは、この屋根の反り具合が屋根の重量を自然に四方に分散するのに非常に合理的な形状であるという点です。加えて、「縄だるみの反り」が雨水を素早く下方に流すのに最適な形状であるという点です。 我々の祖先は、梅雨など雨の多い日本の気候に適応すために、自然を良く観察し、試行錯誤を繰り返しながら日本の屋根の美しい反りを建築に取り入れたのでしょう。 実用の中で育まれた機能美 それが日本刀と日本刀建築の反りに共通する日本人の美意識なのです。
日本に限らず、自然に学んで生み出された遺物にエジプトのピラミッドがあります。
ピラミッドが持つ斜角は適当に付けられた角度ではありません。
あのような巨大建築が数千年に亘って、その形状を維持しているのは、まさにピラミッドがもつ斜角の合理性にその理由の一つを見出すことが出来ます。
ピラミッドの傾斜は約40年くらいの間に目まぐるしく変わっているそうです。
①「屈折ピラミッド」(54°→43°):途中で射角が異なるピラミッド
② 崩壊ピラミッド :射角51°で建築するも何らかの理由で崩壊してしまったピラミッド
③「赤ピラミッド」(43°):安息角と呼ばれる力学的に理想とされる射角に近いピラミッド
(安息角:粉粒体(石炭粉など)を積み上げたときに自発的に、崩れることなく安定を保つ斜面の最大角度を「安息角」と呼ぶ)
巨大な威容を誇るエジプトのピラミッドはこの赤ピラミッドの建築を以って、技術的に完成したといわれているそうです。
砂の粒が自発的に形作る美しい射角をもつピラミッド
日本刀の反り
日本の屋根の縄だるみの反り
一見無関係に思われるこれ等の歴史的遺物に共通する美しさは、実用の中で育まれた人類の英知が放つ美しさなのかもしれません。
Comments